イベントの猛暑対策とは?来場者・スタッフを守るポイントを解説
はじめに
イベントの猛暑対策では、来場者とスタッフの双方を守る体制整備が欠かせません。運営判断の軸として、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 暑さ指数(WBGT)と熱中症警戒アラートを軸に、中止・延期・時間変更を判断すること。
- 日差しを遮る・風を通す・体を冷やす3原則で、会場設計と設備配置を組み立てること。
- びしょ濡れ体験やナイトイベントなど、暑さを逆手にとった演出で満足度を高めること。
- 労働安全衛生規則の改正を踏まえ、スタッフのシフト・休憩・救護体制を整えること。
猛暑時代のイベント運営の現状
記録更新が続く夏の気温と搬送数
夏のイベント運営は、気温の記録更新と搬送数の増加という二つの現実に直面しています。
環境省によると、令和7年度は6月から8月までの平均気温がこれまでの記録を大幅に上回り、3年連続で最も高い記録を更新しました。令和7年夏の熱中症による死亡者数は速報値で令和6年より減少したものの、依然として1,000人を超えています。同省は、令和7年の5月から9月までの熱中症による救急搬送人員が100,510人となり、調査を開始した平成20年以降で最多となりました(参照*1)。
屋外に人が集まる催しを企画する側にとって、従来と同じ準備量では追いつかない段階に入ったことを示します。主催者としては、気温そのものよりも搬送につながる暑さの累積時間をどう減らすかを、企画段階から具体的に検討する必要があります。
主催者に求められる責任範囲の拡大
主催者に求められる役割は、単なる会場提供から健康被害の予防判断まで広がっています。
環境省は、熱中症特別警戒アラートについて、校長や経営者、イベント主催者などの管理者に対し、全ての人が熱中症対策を徹底できているかを確認し、徹底できていない場合には運動・外出・イベントの中止、延期、変更を判断するよう求めています(参照*2)。
つまり、当日の運営だけでなく、開催可否や内容変更の判断そのものが主催者の責任範囲に含まれることになります。判断基準を事前に文書化しておくかどうかが、当日の混乱を左右する分岐点になります。
暑さ指数WBGTと警戒アラートの基礎
WBGTの仕組みと熱中症との関係
猛暑対策の議論では、気温ではなく暑さ指数(WBGT)を軸に据えることが出発点になります。
環境省によると、総務省消防庁のデータでは日最高気温が高い日が必ずしも搬送人員が多い日とは限らない一方で、日最高暑さ指数が上昇するにつれて搬送人員が増える相関がはっきり現れます。特に日最高暑さ指数が28(北海道では26)を超えるあたりから搬送人員が急激に増加します(参照*3)。
スポーツ庁は、活動の場所や種類にかかわらずWBGTに基づいて実施を判断すること、スポーツイベントや大会では開催地域のWBGTを参考に開催時期の変更、開催時間帯をずらす、運動負荷を軽減する、中断・中止といった熱中症予防に配慮した開催方法を検討することを挙げています(参照*4)。
気温だけを見ていると、湿度の高い曇天日のリスクを見落とすことになります。運営判断の物差しは、天気予報の最高気温ではなくWBGTに切り替えておくことが実務の前提です。
警戒アラート・特別警戒アラートの発表基準
アラートには段階があり、それぞれ発表の条件と時間が定められています。
環境省によると、熱中症警戒アラートは府県予報区などの暑さ指数情報提供地点のいずれかで日最高暑さ指数が33以上となることが予測される場合に発表されます。発表時間は前日の午後5時と当日の午前5時です。熱中症特別警戒アラートは、都道府県内の全ての暑さ指数情報提供地点で翌日の日最高暑さ指数が35以上となることが予測される場合に発表され、発表時間は前日の午後2時です(参照*5)。
前日午後5時という発表時間は、翌日の運営体制を組み替えられるぎりぎりの時刻でもあります。アラート発表を確認してから動くのではなく、発表を前提とした縮小プランや延期プランをあらかじめ用意しておく段取りが現実的です。
中止・延期判断の目安となる数値
現場で判断に迷うのは、どの数値でどこまで踏み込むかという線引きです。
スポーツ庁は、WBGTの判断の目安として、31以上で運動は原則中止、特に子どもの場合は中止すべきとし、28以上では厳重警戒として激しい運動は中止し10〜20分おきに休憩と水分・塩分補給を行うべきとしています。さらに、25以上は警戒として、積極的に休憩と水分・塩分補給を行い、激しい運動は30分おきに休憩が必要です(参照*6)。
数値の目安は、迷いを減らす道具として機能します。主催者側で線を明文化しておけば、当日の判断は責任者の主観ではなく合意された基準に沿って動かせます。
来場者を守る会場設計と設備対策
日差しを遮る・風を通す・体を冷やす3原則
会場設計の議論は、この3つの原則に立ち返ると論点が整理しやすくなります。
東京都環境局の休憩所設営ガイドブックは、対策の1つ目のポイントとして、日差しを遮ることで暑さ指数が2程度低下すること、テントで日陰を創出することが最も効果的であると挙げています。2つ目のポイントは風で換気を促進すること、3つ目は体を冷やすことです(参照*7)。
3原則の順番は、投資対効果の順番でもあります。まずは日陰、次に風、そして冷却という順で会場図を見直すと、限られた予算と設営時間の中で優先度を判断しやすくなります。導線上のどこに日陰が足りないかを俯瞰することが、設計の第一歩です。
ミスト・送風ファン・冷却ベンチの活用
設備選定では、どの機器がどの程度気温や体感を下げるかを把握しておくと配置判断が早くなります。
環境省のヒートアイランド対策ガイドラインは、微細ミストを噴霧すると気化熱により局所的に気温が2℃程度、体感温度が1℃程度低下するとしています。同ガイドラインは、日陰で微細ミストを噴霧した場合、ノズルから風下側の水平方向に約5mの範囲内(弱風時)で気温が平均的には2℃、瞬時的には5℃程度低下することが確認されているとしています。加えて、送風ファンで風を当てたり、座面を冷やしたベンチに座ることで直接体を冷やす方法も有効です(参照*8)。
ミストは日陰と組み合わせて初めて温度低下が数値として現れます。日向に単独設置しても効果が読みづらいため、テント・ミスト・ファンを一つの組み合わせとして設計する発想が扱いやすいはずです。
休憩所とクールダウンスポットの設営
設備を並べるだけでなく、体を戻す場所として休憩所を面で用意することがポイントです。
環境省は、屋外のイベント会場などにおける冷却ミスト装置の設置、日除けを備えた休憩所の設置を挙げています。また、冷房の効いた空間をクールスポットとして開放し飲料を提供する方法も紹介しました。長崎県長崎市の事例として、ミスト扇風機20台の設置、氷柱20本の設置、参列者への瞬間冷却剤5,000個の配布を実施しています(参照*9)。
東京都環境局の休憩所設営ガイドブックは、夏季の屋外イベントを安全かつ円滑に実施するためには主催者による適切な暑さ対策の遂行が重要であるとし、熱中症などの健康被害を未然に防ぐため一時的に体をクールダウンさせる休憩所の設置が重要だとしています。同ガイドブックは、東京2025世界陸上マラソン沿道観客向けの暑さ対策を実施事例として紹介しています(参照*10)。
休憩所は「余った場所」ではなく、来場者の滞在時間を伸ばすための機能空間として設計する発想が現場では効いてきます。
満足度を高める演出型の暑さ対策
びしょ濡れ体験とナイトイベントの活用
暑さを避けるだけでなく、暑さを演出の一部として取り込むことで来場体験の価値を高める動きが広がっています。
ユー・エス・ジェイの発表によると、猛暑日が予想される夏の期間には、25周年記念パレード『NO LIMIT! パレード 〜Discover U!!! バージョン〜』の開催時間を夕方に変更しました。同社は、頭上から降り注ぐ大量の水でびしょ濡れになれる『クール・スプラッシュ・タイム』を今年も実施し、暑さがやわらぐ夜からは、夜祭りをテーマにした新イベント『ユニバーサル・サマー・マツリ・ナイト 〜ネオン・グロウアップ〜』を2026年7月1日から8月26日まで開催すると発表しています(参照*11)。
パレードの夕方移動と夜イベント新設は、日中の混雑を下げつつ滞在時間を伸ばす狙いに読み替えられます。同じ来場者数でも、時間帯を分散させれば1人あたりの暑さ暴露は減り、満足度と安全の両立につながりやすくなります。
参加型の打ち水・スプレーアート
参加型の演出は、対策そのものをコンテンツに変える手法として有効です。
環境省のヒートアイランド対策ガイドラインは、打ち水や散水をイベントとして参加者と共に行うことで、楽しみながら暑さ対策を実施できます。ミストを活用する場合にも、濡れにくい微細ミストに加えて、スポーツイベントなどでは噴霧量や粒径が大きいものを採用し積極的に濡らして体を冷やす方法が有効な場合です。集客効果も期待できます(参照*8)。
環境省は、那須ハイランドパークにおいて30歳代を中心に10歳代から60歳代までの3,000人の来園者に対し、熱中症のリスクが高まった際に知らせるデバイス「Biodata Band50」を貸し出し、入園中に継続して着用してもらう取り組みも紹介しています(参照*9)。
対策を我慢の要素ではなく体験の一部として設計できると、来場者の受け止め方は変わります。
スタッフを守る労務・体制整備
改正労働安全衛生規則への対応
スタッフ側の猛暑対策は、法令改正への対応と一体で考える段階に入っています。
環境省によると、熱中症の重篤化による死亡災害を防止するため、熱中症のおそれのある作業者を早期に見つけ、状況に応じて迅速かつ適切に対処できるようにすることを目的として、労働安全衛生規則の改正が2025年6月1日から施行されています。同省は、猛暑対策に必要な作業員用の塩飴、空調服、現場に設置する大型扇風機、製氷機、ミストファンなどの導入経費の確保にも触れています(参照*1)。
設備投資の議論は、来場者向けと従業員向けで分けずに、同じ会場計画の中で並列に組むと抜け漏れが減ります。空調服や塩飴などの費目は、来場者導線の日陰・ミストと同じ検討テーブルに載せる価値があります。
クールダウン拠点の運用
現場のスタッフを守るには、設備の常設に加えて動く支援の仕組みが役立ちます。
ユー・エス・ジェイの発表によると、冷たいドリンクやおしぼり、塩分タブレットをパーク内のクルーに配布する「オアシス隊」を増加させるとしました。パークに入る前や帰ってきたときに利用できるドリンクやクールタオル、塩分タブレットを補給できる「オアシススポット」に加え、テントの中で体を冷やせる従業員のための「クールダウン・ステーション」も設置します。加えて、熱中症予防のために朝食摂取を促進し、クルーカフェにて朝食メニューを新たに導入することを決定しています(参照*11)。
巡回型の支援と拠点型の休憩を組み合わせる設計は、担当エリアを離れにくいスタッフにも対策を届けやすくします。多くの現場では、拠点だけを整えても持ち場を離れられず休めないという課題が出ますが、巡回とセットにすることで運用の抜け穴を埋められます。
シフト設計と朝食摂取・暑熱順化
労務側の対策は、当日のシフトと事前の体調管理を含めて設計する必要があります。
世田谷区は、スタッフへの熱中症予防の啓発を行うこと、スタッフの休憩場所を確保すること、熱中症対策に配慮したシフトを組むこと、熱中症対策の物品として空調服、冷却材、経口飲料水、医療物品などを準備することを挙げています。同区は、当日の対策として、定期的な安否確認を行うこと、不調な場合は作業から除外することを求めています(参照*12)。
シフト表と安否確認の運用は、机上では簡単に見えても、暑さが厳しい日の現場では最初に崩れやすい部分です。声かけと物品準備を同じ担当者に一本化しておくと、当日の運用が破綻しにくくなります。
運営マニュアルと緊急時対応の要点
安全管理・緊急連絡体制の整備
マニュアル整備は、事故が起きた後の動きを速くするための準備と位置づけられます。
スポーツ庁は、大会・イベントなどの開催にあたって、安全対策の責任者はそれに関する専門家と協力したうえで役割分担を明確化し、スタッフに対して安全教育を実施することを求めています。同庁は、緊急時対応計画(Emergency Action Plan:EAP)や緊急対応マニュアルの有無を確認する項目として、災害時や天候悪化時の中止判断基準等を含むかを挙げ、応急対応の準備としてAEDや救急用具の数や場所の確認、医療機関の連絡先の確保を含むかを示しています(参照*6)。
中止判断基準を含むEAPを事前に共有できているかどうかで、当日の初動速度は大きく変わります。責任者一人の判断に依存させず、複数のスタッフが同じ基準で動ける状態を作ることが実務の要点です。
救護所・AED・医療機関との連携
救護体制は、規模に応じた人員配置の目安をあらかじめ確認しておくと計画が立てやすくなります。
世田谷区は、大規模なイベントなどにおいては医療救護所を設置することを挙げています。同区は、東京都が主催する大規模イベントにおける医療・救護計画ガイドラインでは、観客席1万席(人)につき1か所を目安に、医師1名、看護師等2名からなる医療救護所を設置する方針が示されています(参照*12)。
1万人単位の目安は、規模の異なる催しでも計画の当たりをつける物差しとして使えます。人数と会場の広がりから救護所の必要数を逆算しておくと、医療機関との事前調整もスムーズに進みます。
よくある失敗と見落としやすい論点
現場でよく起きるのは、計測点の少なさや実況値の確認不足による判断の遅れです。
東京都環境局の休憩所設営ガイドブックは、人の滞留や機材からの放熱、風通しの悪さなどで暑さ指数が局地的に上昇することがあるため、計測は複数箇所で行い、手動の場合は1時間に1回程度の頻度で計測することが理想的です(参照*7)。
予測値だけで安心せず、実況値を追い続ける担当を置くことが、判断遅れの防止に直結します。
おわりに
イベントの猛暑対策は、来場者向けの設備、演出、スタッフの労務、緊急時対応の4つを同じ計画の中で組み立てる作業になってきました。搬送人員が過去最多の水準に達し、アラートの発表基準やWBGTの目安が具体的な数値で示されている以上、判断の物差しは主催者の勘ではなく共通の指標へと移りつつあります。
日陰・風・冷却の3原則を土台に、演出で満足度を高め、法令改正に沿ってスタッフを守る。この順序で計画を見直すと、限られた予算の中でも優先順位が定まりやすくなります。数値で線を引き、複数の担当が同じ基準で動ける状態を用意しておくことがポイントです。
参照
(*2) 環境省熱中症予防情報サイト
(*3) 熱中症リスクが高まる今、私たちが実践できる「COOL CHOICE」
(*5) 環境省 – 令和7年度熱中症特別警戒アラート及び熱中症警戒アラートの運用を開始します
(*6) https://www.mext.go.jp/sports/content/20251112-spt_kensport01-000045787_6.pdf
(*7) https://www.tokyokankyo.jp/tekiou-center/wp-content/uploads/sites/10/2026/03/kyukeijo_guidebook.pdf
(*8) https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guidelineH30/gudelineH30_all.pdf
(*9) https://www.env.go.jp/content/900517444.pdf
(*10) 夏季イベントの暑さ対策「休憩所設営ガイドブック」 – 東京都気候変動適応センター – 夏季イベントの暑さ対策「休憩所設営ガイドブック」
(*11) 合同会社ユー・エス・ジェイ
(*12) https://www.city.setagaya.lg.jp/documents/32632/checklist.pdf
