推し活市場はどこまで拡大する?拡大予測を左右する要因と消費行動の最新動向

はじめに

推し活市場は年々その存在感を増しており、企業やブランドにとっても無視できない消費領域になっています。展示会や商談の現場でも「推し活層をどう取り込むか」という相談が増えており、市場の拡大予測と消費行動の実態を正しく把握できているかどうかで、施策の精度が大きく変わります。

推し活市場の規模は約4.1兆円に達した一方、一人あたりの年間支出額は低下傾向にあり、拡大の中身は一枚岩ではありません。本記事では、市場規模の推移から消費行動の多層構造、拡大を左右する要因まで紹介します。



推し活市場の定義と現在地


推し活の定義と対象ジャンル

推し活とは、アイドルやアニメ、俳優、ゲームキャラクターなど「推し」と呼ばれる存在を応援するためにお金や時間を投じる行為を指します。2021年には流行語大賞にノミネートされ、社会的に広く認知されるようになりました。現在では15〜79歳の3人に1人が推しを持ち、単なる趣味を超えた生活文化として定着しつつあります(参照*1)。

推しの対象ジャンルは多岐にわたります。1,000人を対象にした調査では、最推しのジャンルとして1位が「アイドル」で26.3%、2位が「ミュージシャン」で18.1%、3位が「アニメキャラ・漫画キャラ」で14.1%、4位が「スポーツ選手」で11.0%、5位が「俳優」で7.3%でした(参照*2)。アイドルが突出しているものの、音楽やスポーツ、アニメなど幅広い分野に分散しており、推し活市場が特定のジャンルに依存していないことがわかります。


推し活人口の推移と属性

推し活人口は着実に増加しています。2024年1月時点では「推し活をしている」と回答した人は全体の14.1%で、人口換算すると約1,136万人でした。2025年1月にはこれが16.7%・約1,384万人に増え、特に30代前半女性では8.2ポイント増の30.4%と顕著な伸びを見せました(参照*3)。

さらに直近の調査では「推し活をしている」と回答した割合が全体の24.0%に達し、前回調査から7.3ポイント増加しています。人口換算では約1,940万人となり、前回の約1,384万人から556万人ほど増えた計算です(参照*4)。

別の調査では、推し活をしている人は全体の36%に上り、18〜29歳で55%、30代で47%と若年層ほど割合が高い結果も出ています(参照*5)。調査によって定義や設問が異なるため数値にはばらつきがありますが、推し活人口が拡大基調にあるという方向性は共通しています。


市場規模の推移と拡大予測


主要調査が示す市場規模

推し活市場の規模は複数の調査から裏付けられています。直近の試算では、推し活市場規模は前年の約3.5兆円から伸長し、約4.1兆円に達しました(参照*4)。1年で約6,000億円の上積みがあった計算になり、市場の拡大ペースの速さが見て取れます。

主要16分野の市場規模は2020年度から2024年度にかけて約50%拡大しています(参照*1)。2021年度以降は着実な成長が続いており、推し活関連市場が堅調に拡大してきたことが確認できます。コロナ禍からの回復だけでなく、人口の裾野が広がったことが成長の持続を支えています。

ただし、市場規模の算出方法は調査ごとに異なります。対象ジャンルの範囲や「推し活」の定義をどこまで広く取るかによって数字が変わるため、単一の数字だけでなく複数の調査を並べて傾向を確認する姿勢が欠かせません。


ジャンル別の市場構成

ジャンル別に見ると、市場の偏りと厚みが鮮明になります。推定人口をもとにした試算では、1位が「国内のアイドル」で4,709億円、2位が「ミュージシャン・バンド」で3,548億円、3位が「スポーツ選手」で1,565億円でした(参照*6)。アイドル分野が突出しているものの、音楽やスポーツにも数千億円規模の市場が形成されています。

また、キャラクタービジネスも推し活市場と密接に連動しています。2023年度のキャラクタービジネス市場規模は前年度比2.2%増の2兆6,969億円と推計されました。アニメ主題歌との相乗効果で人気となった作品や、キャラクター展開で実績のある作品のアニメ放送が市場をけん引したと分析されています(参照*7)。推し活市場の拡大予測を考える際には、こうしたジャンル間の波及効果にも目を向ける必要があります。


関連市場の成長トレンド

推し活市場の拡大は、関連する周辺市場の成長トレンドとも連動しています。その代表的な領域がライブ・エンターテインメントです。2024年の音楽フェス市場規模は434億円と推計され、前年から11.5%増加しました。動員数も前年比5.4%増の360万人と堅調に推移し、2023年にコロナ禍から回復した音楽フェス市場は2024年も好調を維持しています(参照*8)。

音楽フェスやライブイベントへの参加は推し活の主要な消費行動のひとつであり、動員数の増加は推し活人口の広がりと地続きの現象です。現場で聞こえてくるのは「初参加層が増えている」という声であり、この傾向が続く限り関連市場の成長も見込むことができます。


拡大を左右する構造的要因


物価高・円安への耐性

推し活市場の拡大予測を考える上で避けて通れないのが、物価高や円安の影響です。実際にファンがどう受け止めているかを調べた結果では、推し活全般において「全く影響しない」と答えた人が54%を占めていました。特に高齢層でその傾向は顕著で、60代では73.0%、70代では66.3%が「影響しない」と回答しています(参照*6)。

この結果は、推し活が生活の中で優先度の高い支出として位置づけられていることを示唆しています。全体の過半数が物価高の影響を感じていないという事実は、推し活市場が景気変動に対して一定の耐性を持っている可能性を示しています。


クリエイターエコノミーとの相乗

推し活市場の拡大には、クリエイターエコノミーとの相乗効果も寄与しています。クリエイターエコノミーとは、YouTubeやInstagramなどのプラットフォーム上でクリエイターがユーザーとの接点を持ち、収益を生み出す経済圏のことです。この領域は2021年から2023年まで年間平均17.4%の成長を記録しました。クリエイターエコノミーによる推し活促進のための仕掛けづくりが推し活の普及と市場拡大に寄与し、結果としてクリエイターエコノミー市場の拡大にもつながったという見方があります(参照*1)。

つまり、推し活がクリエイターエコノミーを育て、その成長がまた推し活の入り口を広げるという循環が生まれている構図です。この相互関係が続く限り、双方の市場は連動して拡大する可能性があります。


世代拡大とライト層の流入

推し活市場の拡大を支えるもうひとつの要因が、世代の広がりとライト層の流入です。50〜70代の女性を対象にした調査では、「推しがいる」と回答した割合は50代が48.5%、60代が46.2%、70代が45.1%とほぼ横並びでした。2022年から2023年にかけて10ポイント以上増加した後、横ばいで推移しており、推し活が若い世代だけの流行ではなく世代横断の日常として定着しつつあります(参照*9)。

若年層の推し活率が高いことに加え、シニア層にまで裾野が広がっている現状は、推し活市場の成長余地がまだ残されていることを意味します。一方で、ライト層が増えるほど一人あたりの支出額が平均を押し下げる可能性もあり、市場規模の拡大予測は「人口の増加」と「単価の変動」を分けて見る視点が求められます。


消費行動の実態と多層構造


支出額の分布と二極化

推し活市場が拡大しているからといって、一人ひとりの支出が一律に増えているわけではありません。直近の調査では、推し活の年間出費額の全体平均は209,716円でした。推し活人口が大幅に増加したにもかかわらず、前年の255,035円から低下しています。また中央値は4万円で、平均値との差が大きく、推し活にかける金額には大きな幅があることがわかります(参照*4)。

月額ベースの調査でも同様の傾向が確認できます。1カ月にいくら使っているかを聞いたところ、最も多い回答は「0円(お金はかけていない)」で22.6%でした。金額が高くなるにつれて割合は低下し、平均は7,648円、中央値は2,092円となっています(参照*2)。お金をかけずに推し活をしている層から、年間数十万円を投じるコア層まで、消費行動のグラデーションが非常に幅広い点が推し活市場の特徴です。


公式・自主・付随・コラボの四類型

推し活の消費行動は、ひと口にまとめられるものではなく、いくつかの類型に分かれます。まず「推し活公式消費」とは、推しコンテンツを持つ事業者が主催するライブや試合への来場、公式グッズの購入といった直接的な消費を指します。事業者にとっては事業の本丸にあたりますが、中小規模の事業者の中にはマーケティング人材を確保できなかったり、データ基盤を構築できないことで、本来生み出せるはずの推し活消費を十分に引き出せていないケースもあります(参照*10)。

推しを起用したキャンペーン商品や、推し色を意識した商品への購買意欲も高いことがわかっています。特に10代後半女性では全項目で50%以上が購入意欲を示す結果が出ています(参照*11)。公式消費に加え、コラボ商品や推しにまつわる関連消費が市場の裾野を広げている構図です。

なお、推し活クレジットカードのように、実施者の利用意向は高い一方で実際の利用者がまだ少ない領域もあり、コラボ消費はまだ開拓途上にあると指摘されています(参照*10)。


応援広告という新消費領域

推し活の消費行動の中でも、近年急速に存在感を増しているのが応援広告です。応援広告とは、ファンが自費で推しのために広告枠を購入し、駅や商業施設などに掲出する消費行動を指します。首都圏における応援広告の認知率は、2022年の26.1%から2025年には32.3%へ上昇しました。ファン一人あたりが年間に応援目的で出してもよいと考える金額も前年の2.7万円から3.4万円へと増加し、推計されたポテンシャル市場規模は前年比約1.6倍の1,283億円に達しています(参照*12)。

さらに注目すべきは、応援広告が広告出稿そのものにとどまらず、他の消費行動を後押ししている点です。応援広告の実施者の83.5%が「応援広告以外の推し活費用が増えた」と回答しており、増加した支出先はグッズ購入が60.2%、投げ銭が48.1%、イベント・ライブ参戦が47.6%でした(参照*13)。応援広告は単独の消費領域であると同時に、推し活全体の消費行動を活性化させる起爆剤として機能しています。


消費を超えた波及効果と注意点


ウェルビーイングと自己成長

推し活の価値は消費行動の枠に収まりません。推しがいる人の58.9%が直近3年で新しいことに挑戦しており、これは推しがいない層の約2.2倍にあたります。人生の幸福度を10点満点で比較すると、推しがいない層は5.2点だったのに対し、推しをきっかけに新しい挑戦をした層は6.4点でした(参照*12)。

投げ銭や月額課金型サポートなどの消費行動は、寄付と同様に「利他性」に基づく満足感に寄与しているとし、ウェルビーイング(心身の幸福感)に影響を与え得ると指摘されています(参照*1)。推し活市場の拡大予測を読むうえでは、経済的な消費額だけでなく、こうした心理的・行動的な波及効果も視野に入れることで市場の厚みが見えてきます。


企業が見落としがちなリスク

推し活市場への参入を検討する企業にとって、見落としがちな課題もあります。推し活公式消費の領域では、中小規模の事業者がマーケティング人材やデータ基盤を確保できず、本来生み出せるはずの消費を十分に引き出せていないケースがあると指摘されています(参照*10)。

また、推し活実施者の利用意向が高い推し活クレジットカードのようなコラボ領域でも、実際の利用者数は意向の高さほどには伸びていない状況が報告されています。「ファンが欲しがっている」ことと「実際に使われる」ことの間にはギャップがあり、企業は市場の熱量だけに頼らず、ファンの消費行動の実態を丁寧に把握したうえで施策を設計する必要があります。


おわりに

推し活市場は約4.1兆円規模に達し、推し活人口も約1,940万人まで拡大しています。一方で一人あたりの支出額は低下しており、ライト層の流入による構成変化が進んでいます。拡大予測を読む際には、人口の広がりと支出単価の動きを分けて捉えることが欠かせません。

消費行動も公式消費からコラボ消費、応援広告まで多層化しており、市場の伸びしろはまだ残されています。狙う消費行動の類型を見極め、ファンとの接点を具体的に設計するところから検討を進めることがポイントです。


参照

(*1) 推し活 ~若年層を中心に急成長する消費形態~

(*2) 推し活に関する意識・実態調査 2026

(*3) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 推し活人口は1384万人、市場規模は3兆5千億円に!第2回推し活実態アンケート調査結果を公式noteで公開

(*4) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 推し活人口2000万人へ!市場規模は4.1兆円に! 第3回 推し活実態アンケート調査結果を公式noteで公開。

(*5) 【お知らせ】推し活など余暇行動に関する実態・意識調査(2025年6月定点ココロスタイルリサーチ)

(*6) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 「推し活」3人に1人。物価高・円安の影響「受けない」5割超

(*7) ITmedia ビジネスオンライン – キャラクタービジネスの市場規模 前年からの増減は?

(*8) ぴあ株式会社 – 音楽フェス市場は434億円に拡大 /ぴあ総研が2024年の確定値を公表

(*9) 株式会社ハルメクホールディングス – 【50代以上女性の「推し」に関する意識・実態調査 2025】推し活費用は平均11万円に増加、チケット代高騰・インバウンドで遠征費圧迫も “古参ファン”が再び存在感を強める結果に

(*10) 野村総合研究所(NRI) – 拡大する「推し活」市場のポテンシャルとビジネスの可能性

(*11) CDG – 推し活の調査研究をおこなう「推し活総研」を新たに設立 推し活レポート第1弾 「推し活人口1千万人超!5つの視点で紐解く“推し活“の現状」を先行公開

(*12) Cheering AD – 【推し活・応援広告調査2025】推しがいる人は「新しい挑戦」に2.2倍積極的!推し活は趣味を超え、日常を動かす”原動力”へ

(*13) AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議 – 宣伝会議が運営する、広告界のニュース&情報プラットフォーム「AdverTimes.(アドタイ)」 – 応援広告市場のポテンシャルは1283億円規模、jeki推計 推しがいる人は新たな挑戦に積極的との分析も