イベント制作はどこまでDXできるのか?現場の効率化と成果向上の可能性
はじめに
イベント制作の現場では、企画から集客、当日の運営、終了後のフォローまで、膨大な作業が担当者の手に集中します。限られた人数で品質を保ちながら成果を出すために、デジタル技術をどこまで活用できるのかは、多くの主催者が抱える切実なテーマです。
この記事では、イベント制作のどの工程にDXが効くのか、ツール選びで見るべき基準は何か、そして導入時に現場でつまずきやすいポイントをどう乗り越えるかを、具体的な事例や数字をもとに紹介します。
イベント制作におけるDXとは何か
イベント制作の全体プロセスとデジタル化の対象領域
イベント管理システムは、企画から集客、申込受付、当日の受付・配信、事後フォローまでを一元管理できる仕組みです。告知用のLP作成や申込フォーム、メール配信、QRコードによるチェックイン、配信の視聴ログやアンケートの回収、資料ダウンロード、商談予約など、リアル・オンライン・ハイブリッドといった開催形式に応じた機能を備えています(参照*1)。
ハイブリッド開催では、配信方式と参加者データの統合管理まで見据えてツールを選ぶ必要があります。ライブ配信・録画配信・オンデマンド配信への対応、オフライン参加者とオンライン参加者のデータ統合管理、大規模な同時接続でも安定した映像・音声品質を維持できるか、アーカイブ動画の公開や視聴管理の機能があるかといった点の確認が求められます(参照*2)。
こうした対象領域を把握したうえで、自社のイベント形式と照らし合わせ、どの工程をデジタル化する優先度が高いかを洗い出す作業が出発点になります。
DXが求められる背景と業界課題
イベント制作の現場はストレス負荷が高く、運営の省力化が課題になりやすい領域です。CareerCastの年間リスト(最もストレスの溜まる仕事ランキング)では、イベントコーディネーターが警察官・パイロット・消防士に次いでランクインしています(参照*3)。
Excelで参加者リストを管理し、汎用のWeb会議ツールで配信し、複数ツールを併用する運用には限界があります。Excelでは参加者データの突合作業に膨大な時間がかかり、リアルタイムで参加状況を把握できません。汎用Web会議ツールは大規模な同時接続に不安があり、複数セッションの並行管理が困難です。さらに複数ツールを併用すると、CRMやMAとの連携が手作業になり、フォローアップが遅れてしまいます(参照*2)。
こうした課題を解消する手段として、イベント制作の各工程を横断的にデジタル化するDXの必要性が高まっています。自社の運営体制のなかで、どの工程に最も工数やストレスが集中しているかを棚卸しすることが、DXの方向を決める第一歩になります。
どちらか一方に絞るのではなく、リアルとオンラインで異なる収益ポイントを把握し、それぞれの強みを掛け合わせる設計を検討することが必要です。
DXで変わるイベント制作の工程別メリット
企画・集客フェーズの自動化と効率化
企画から集客までのフェーズは、イベント管理システムでツール間の転記を減らしやすい領域です。告知LP・登録フォームの作成からメール配信まで一つの基盤上で運用できるため、ツール間のデータ転記を減らせます。LP作成、登録フォーム、メールマーケティング機能を備えたシステムを活用すれば、効果的なイベント集客を支援する土台が整います(参照*4)。
企画・集客・当日運営・事後フォローを一つのプラットフォームで一気通貫で管理すると、運営工数の大幅な削減につながります。さらに、運用のノウハウがシステムに蓄積されるため、担当者が交代しても品質を維持しやすくなります(参照*2)。
集客フェーズの自動化を検討するときは、現在の運用でどこに転記作業や手戻りが発生しているかを書き出し、削減効果の大きい箇所から着手しましょう。
当日運営の省力化と参加者体験の向上
当日運営は作業が集中するため、受付やログ取得の自動化が効きやすい工程です。QRコードによるチェックインを導入すれば、受付の行列を短縮でき、参加者データも自動で取得できます。視聴ログやセッション参加履歴、アンケート回答などを自動で収集する仕組みがあれば、人手による記録作業が不要になります(参照*2)。
協賛企業からの各種申し込みやアンケートも、外部フォームからデータベースへ直接登録できるツールを活用すると、申込状況を一覧で把握しやすくなります。対応状況のステータス管理によって、確認の手間と漏れを同時に減らせます(参照*5)。
当日運営の省力化を設計する際には、受付・配信・参加者対応の各業務ごとに、人が判断すべき作業と機械に任せられる作業を切り分けておくと、導入後の混乱を防ぎやすくなります。
事後フォローとデータ活用による成果向上
イベントが終わった後のフォロースピードと精度が、商談化率を左右します。イベント終了から48時間以内にお礼メールを送り、当日話した内容や次のアクションを明記することが実務上の基準とされています。参加者の属性に応じたメール配信シナリオを設計し、興味分野別のコンテンツやイベント資料を提供したうえで、営業担当がフォローコールを行い、資料送付後の確認や課題ヒアリングを通じて次の商談へつなげる流れです(参照*6)。
データの活用という点では、CRMへの自動登録による即日フォロー、興味のあったセッションに基づくMAでのコンテンツ出し分け、商談ログやアンケート結果のSFAでの一元管理が挙げられます。オフラインイベントで得た生の情報を営業の流れに組み込めるかどうかが、イベントの費用対効果を高める鍵になります(参照*7)。
イベント後のデータ分析とスコアリング機能、MAやCRMとの連携を通じて、質の高い見込み顧客の育成が可能になります(参照*4)。事後フォローの設計は、イベント開催前に営業チームと合意しておくことで、終了直後から動ける体制がつくれます。
イベント管理システムの種類と選び方
業務効率化型・大規模配信型・リード獲得型の分類
イベント管理システムの導入目的は、大きく3つに分けて考えられます。1つ目は、イベント開催にともなう準備や管理などの業務を効率化したいという目的です。2つ目は、数百人から数万人規模の大型イベントでも安定した配信環境を確保したうえで運営したいというニーズです。3つ目は、イベント中に商談や資料配布をスムーズに進め、見込み顧客の獲得につなげたいという狙いです(参照*1)。
この3分類のどこに自社の課題が位置するかによって、選ぶべきシステムの方向性が変わります。たとえば業務効率化が最優先であれば、申込管理や受付の自動化機能の充実度を見るのが合理的です。大規模配信を重視するなら、同時接続数や複数セッションの並行管理能力が選定基準の中心になります。見込み顧客の獲得を重視する場合は、行動ログの取得やスコアリング機能、後述するCRM・MA連携の有無がポイントです(参照*8)。
まずは直近で開催するイベントの規模・形式・最も解決したい課題を書き出し、3つの目的のうちどこを起点にするかを明確にしてからツール比較に入ると、候補を絞り込みやすくなります。
CRM・MA・SFA連携を軸にした判断基準
ツール選定では、イベント後のデータ活用を前提にした連携性が判断軸になります。単なる機能比較ではなく、どれだけ営業やマーケティングの成果に結びつくかという視点で評価する必要があります。具体的には、イベントで取得したデータをCRMやSFA(営業支援システム)へ即時に連携できるか、行動ログやアンケートから見込み度の高い顧客を自動で抽出できるか、営業の現場がデータを見てすぐ動ける状態にできるか、MAツールと連携して育成施策を自動化できるかが評価項目になります(参照*7)。
逆に、こうした連携を手作業で行っている場合、フォローアップの遅れが生じやすく、せっかくの来場者データが活用されないまま放置されるリスクがあります。自社で現在使っているCRM・MA・SFAの製品名とAPI仕様を事前に確認し、候補のイベント管理システムとの接続可否を検証する手順を組んでおくと、導入後の手戻りを減らせます。
DX導入の進め方と現場に定着させるポイント
スモールスタートから段階的に広げる手順
DXは全工程を一気にデジタル化するより、負荷の高い工程から段階的に進めるほうが現場に合いやすいです。東京ドーム主催イベントの事例では、当初は紙やExcel、メールを使いながら徐々に業務管理ツールへ作業を移行する計画でしたが、実際に進めると想定以上の工数がかかり、ツールによる作業軽減を行っています。担当者自身が簡単なアプリを自分で作れる知識を持っていたことや、身近に相談できるパートナーがいたことで、すぐに改善策に着手できたといいます(参照*9)。
この事例が示しているのは、「できることから少しずつ」という段階的なアプローチの有効性です。まず負荷の高い1つの工程をデジタル化し、現場の手応えを確認してから次の工程に広げるという手順が、無理のない導入につながります。導入前に、最も工数がかかっている業務を1つ特定し、そこだけを対象にした小さな実験から始めるのが実務的です。
現場担当者の負担を減らす運用設計の工夫
現場担当者の負担を前提に運用を設計すると、ツールが定着しやすくなります。ある導入担当者は「自分もあくまでツールを利用するユーザーのひとり。利用者の気持ちに沿って、無理な開発はしないと決めていたことが成功の秘訣」と語っています。導入時に大切なのは、技術や利便性だけでなく、使う人の気持ちを第一に考えることだと述べられています(参照*9)。
成功事例を社内に共有し、次回の施策へ反映するサイクルをつくることも、定着を後押しします。イベントは一過性の活動ではなく、継続的なマーケティング活動の一部であり、ひとつひとつの取り組みに戦略性を持たせて改善を積み重ねていく姿勢が求められます(参照*6)。
運用設計の段階で、現場担当者が「入力する理由」を実感できる仕組みを組み込んでおくと、データの入力漏れや形骸化を防ぎやすくなります。
DX推進で陥りやすい失敗と注意点
ツール導入が目的化するリスク
ツール導入が目的化すると、集客やフォローなど運用上のミスで費用対効果が下がるおそれがあります。どれだけ優れた企画やコンテンツを用意しても、集客の失敗や目的の曖昧さ、フォローの遅れといった運用上のミスがあれば、費用対効果の大幅な低下やブランド価値の毀損につながるおそれがあります。とくにBtoB領域では、参加者の質と商談へのつながりが評価基準となるため、細部まで設計された戦略的な運営が欠かせません(参照*6)。
ツールやソフトウェアの導入には初期コストがかかります。しかし、うまく連携し合うイベント管理ツールを厳選すれば、それぞれから投資以上のメリットが得られるとされています。ツールへの不安が少ないほど、イベントそのものの成功に集中する時間を確保できます(参照*3)。
導入を検討する際は、「このツールで何の業務課題を解消し、どの指標を改善するのか」を事前に言語化しておくことで、目的と手段の逆転を防ぐことができます。
データ収集だけで終わる落とし穴と対策
データを集めるだけで終わると、来場者データが活用されないまま放置されるリスクがあります。オフラインイベントの後、参加者リストをExcelでまとめたり名刺をスキャンして保存したりしている企業は多いです。しかし、それらのデータがその後の営業やマーケティング活動に活かされず、単なる名簿として放置されてしまうケースは珍しくありません(参照*7)。
この落とし穴を避けるには、イベント前の段階で「誰が・いつまでに・どのデータを使って・何をするか」を営業チームとマーケティングチームの間で合意しておく必要があります。データの取得方法だけでなく、取得後のフローを具体的な担当者名とスケジュールに落とし込む作業が、収集と活用のギャップを埋める実務上の対策になります。
イベント制作DXの実践事例
kintone活用で注文管理を大幅に短縮した東京ドーム
東京ドームに関連する現場では、イベント期間中の注文管理業務にkintoneが導入されました。導入前、初日は3人がかりで6時間かかっていた注文管理業務が、1週間後には1人で1時間弱でこなせるようになったといいます。「できることから少しずつkintoneに移す」という考え方があったからこそ、無理なくスムーズに現場へ投入できたとされています(参照*9)。
この事例は、最初から完璧な仕組みを目指すのではなく、日々の運用のなかで改善を重ねるアプローチが現場のDXに有効であることを示しています。自社のイベントで最も人手と時間を消費している定型業務はどこかを洗い出してみると、類似の効果が見込める領域が見つかる可能性があります。
約5,000人規模イベントを1人で運営するkintone連携術
kintone上で情報管理とコミュニケーションを統合し、約5,000名規模のイベント運営を省力化した事例があります。約5,000名の来場者を目標とし、約50社の協賛申込を受け付ける大規模イベントにおいて、運営に関わる全ての情報管理とコミュニケーションがkintone上で行われたとされています。共同で事務局を担う4社が同一のデータベースを共有することで、「データを右から左に流すだけの手間」を限りなくゼロに近づけることができたと報告されています(参照*5)。
協賛企業からの各種申し込みやアンケートの一部には、外部フォームから直接kintoneにデータを登録できる仕組みが使われました。一覧で申込状況を把握でき、対応状況をステータスで管理できるため、確認漏れがなくなるだけでなく、確認にかかる時間も削減できました(参照*5)。
複数社が関わる大規模イベントでは、情報の受け渡しそのものが大きな工数を生みます。共通のデータベースを持つことで、転記ミスや確認待ちの時間を構造的に削減できるという点は、規模を問わず参考になる設計です。
人流可視化で混雑対応とスポンサー価値向上の可能性を探ったコングレ
イベント制作DXの実践例として参考になるのが、コングレによる人流可視化の実証実験です。2021年10月、同社はコングレスクエア日本橋で開催された国際会議「UIA Associations Round Table Asia-Pacific」において、会場内の混雑状況をリアルタイムで計測・可視化する仕組みを導入しました。受付会場を複数エリアに分け、人数に応じて混雑度を色で表示することで、来場者の安心感を高めると同時に、運営側が状況を把握しやすい環境を整えています(参照*10)。
この事例のポイントは、混雑対策にとどまらず、人流データを次の運営改善やマーケティングに生かせる可能性を示した点です。コングレ側は、どこに人が集まりやすいかを分析できれば、展示会で優先度の高いスポンサーの案内先を検討する材料にもなりうると述べています。イベント制作DXは、現場の安全性と運営効率を高めるだけでなく、出展価値の見せ方を磨く基盤にもなり得ます。
展示会マーケティングでKPI300%超を実現したScalehackの取り組み
展示会は「出れば成果が出る施策」ではなく、「設計・運用・連携」によって費用対効果が大きく分かれる施策へと変化しています。営業・マーケティング支援のリーディングカンパニーScalehack主催のイベントでは、KPI300%超を実現してきた再現性のある展示会戦略がパネルディスカッション形式で公開されました。展示会を単発のイベントではなく、事業成果に直結するマーケティング施策として再定義する視点が提示されています(参照*11)。
そこで深掘りされたテーマは、なぜ展示会が名刺交換で終わってしまうのか、受注につながる展示会とつながらない展示会の決定的な違いは何か、そして費用対効果をどのように可視化して社内や経営層に説明できる状態をつくるか、という3点です(参照*11)。
展示会への出展を計画している場合、名刺の獲得枚数だけでなく、その後の商談化率や受注金額まで含めた指標を設計段階で設定し、関係者間で共有しておくことが、成果を測定可能な状態にするための具体的な一歩です。
おわりに
イベント制作のDXは、ツールを導入して終わりではなく、現場の課題を起点にした段階的な取り組みの積み重ねで進んでいきます。企画から事後フォローまでの各工程で、人が判断すべき作業とデジタルに任せられる作業を切り分けることが出発点です。
まずは自社のイベント運営で最も工数がかかっている工程を1つ選び、小さな実験から始めてみてください。そこで得た手応えと数字が、次のステップへ踏み出す根拠になります。
参照
(*1) アスピック|SaaS比較・活用サイト – イベント管理システムの比較16選!3つの目的別の選び方 | アスピック|SaaS比較・活用サイト
(*2) EventHub – カンファレンス運営ツール比較|選び方のポイント | EventHub|シェアNo.1 イベントマーケティングプラットフォーム
(*3) Asana – イベント管理に役立つツール 7 選: 計画からマネジメントまで [2026] • Asana
(*7) 株式会社ビデオマッチング – 【2025年最新版】オフラインイベントを成功に導く!イベント管理システムとデータ活用の徹底ガイド | 株式会社ビデオマッチング
(*8) https://businesseventstokyo.org/assets/pdf/resources/Tokyo_MICE_technology_guidelines.pdf
(*9) 事例 | kintone(キントーン) – 東京ドーム | 事例 | kintone(キントーン)
