イベントに効果的な音響とは?音響効果の種類と役割

音響効果は映像作品の制作やライブや舞台といったイベントに臨場感を与えたり、見ている人の感情を動かしたりするために重要な役割を果たしています。屋内や屋外に限らず、イベントを盛り上げるためには音響効果の仕事が欠かせません。

 

本記事では、音響効果スタッフの具体的な仕事内容をはじめ、音響効果の種類、音響効果にこだわるメリットを解説します。また、音響の演出にこだわって成功したイベント事例についても紹介しているので、ぜひイベントを成功させるための参考にしてみてください。


▶記事監修者:足尾暖氏
株式会社ZERO Animation 代表取締役 
イベントプロデューサー

ゲームプロダクション、大手デジタル広告代理店での経験を経て2023年、株式会社ZERO Animationを起業。
ライブ、法人イベント、展示会など幅広いイベントを手掛け、年間30件以上の企画、集客、運営、分析を担当している。



ライブや舞台における音響効果の役割

映画や演劇、テレビ放送などにおいて、擬音をつけたり音に存在感を持たせたりする音響効果は、ライブや舞台を盛り上げるために欠かせない演出効果の一つです。たとえば、ライブでアーティストの演奏や歌がよく聞こえなかったり、ハウリングしたりすると観客は不快感を覚えます。

 

また、舞台でシーンに合わない音楽が流れていると、ストーリーに没頭できません。このように、音響効果はライブや舞台の印象を大きく左右するといっても過言ではありません。

 

音響効果の技術を身につけるためには、スキルや知識、経験はもちろん、センスも必要です。
 


ライブや舞台の音響と映像作品の音響の違い

ライブや舞台の音響と映像作品では、音響効果の役割が違います。主な違いは次のとおりです。

 

●     ライブや舞台:空間づくり、体験の創出、コンセプトづくり

●     映像作品:感情への訴求、イメージ誘導

 

どちらもノイズや不要な音を排除し、見ている人の没入感を高めるという点では同じです。しかし、ライブや舞台はテーマやコンセプトを表現するため、音で心地いい体験を提供するのに対し、映像作品は脚本や構成、登場人物の演技といった情報を補足したり、音で表現したいイメージに誘導したりする役割を持っています。
 



音響効果スタッフの仕事内容

ライブや舞台と映像作品の音響の役割に違いがあるとおり、音響効果スタッフの仕事内容は、現場によって異なります。音響効果スタッフの仕事は、おもに次の2つの職種・業務内容に分られます。

 

●     PAエンジニア:ライブや舞台会場の音をコントロールする

●     MAエンジニア:放映できる状態に仕上げる役割
 


PAエンジニア:ライブや舞台会場の音をコントロールする

PAは「「Public Address(公衆伝達)」の略で、屋内外のライブやフェス、コンサート、舞台において、音響効果を担当するエンジニアのことを「PAエンジニア」と呼びます。PAエンジニアは、アーティストや舞台監督、プロデューサー、照明スタッフなどと打ち合わせを行い、公演中の歌やトーク、演技が最適な形で観客に伝わるようにコントロールします。

 

また、公演開始前のBGMで観客の期待を高めたり、公演中のシーンに合ったBGMを選択したりするのもPAエンジニアの仕事です。会場の音響設備によっては、自ら機材を手配し、搬入や設置を行うこともあります。

 

PAエンジニアが仕事をする現場は、ライブや舞台など失敗が許されないうえ、臨機応変に対応することが求められます。
 


MAエンジニア:放映できる状態に仕上げる役割

MAは「マルチオーディオ」の略で、テレビ番組やCM、ドラマ、映画、ミュージックビデオの映像の音を調節する仕事を「MAエンジニア」といいます。MAエンジニアの仕事は、セリフやナレーションといった音声の最適化や、BGM、効果音の追加、作品全体の音響バランスの調整など多岐にわたります。

 

収録した映像の不要な音を除去して聞き取りやすくしたり、映像の意図を視聴者に伝えるために音楽をつけて情報を補足したりなど、もとの映像を作品として仕上げるのがMAエンジニアの仕事です。効果音やBGMは作品のイメージを大きく左右することもあるため、作品との親和性やセンスが重要視されます。
 



ライブや舞台を盛り上げる音響効果のエフェクト

ライブや舞台で音楽や声を印象付けるためには、エフェクトといって、音に影響を与えて変化させる効果が重要な役割を果たします。たとえば、狭い部屋で歌うのと、広いホールで歌うのでは、音の響き方がまったく違います。

 

このように、同じ音でも観客にとって魅力的な音に変換できるのがエフェクトの魅力です。エフェクトのおもな種類は次の4つです。
 


リバーブ

振り幅の違う複数の音が、床や壁、天井などに何度もぶつかり反射することによって生じる複雑なエコーを「リバーブ」または「残響」といいます。たとえば、広いホールで歌をうたったとき、観客の耳にはまず歌が聞こえ、その後に反射した音が聞こえます。

 

このように、音に残響音や反射音を追加することによって、狭い会場でも広いホールにいるような残響感を演出できるのがリバーブです。会場に合わせてリバーブを調整することで、ライブやイベントの音を壮大に演出できます。

 

リバーブのおもな種類は次のとおりです。

 

●     Hall(ホール):大きな部屋を想定したリバーブで、もっとも残響音を感じることができる

●     Stage(ステージ):ホールよりも小さい空間を想定したリバーブ

●     Room(ルーム):部屋を想定したタイプのリバーブ

●     Plate(プレート):金属プレートを用いたリバーブを想定したタイプ

 

リバーブは実際の音よりも深みや広がりを演出できるというメリットがありますが、をかけすぎてしまうと、音が濁ってしまうので、微調整が必要です。
 


コーラス

元の音に微妙に遅延させた音を重ねることで、大人数で演奏しているように演出するエフェクトを「コーラス」といいます。厚みや広がりを演出できるのが、コーラスの特徴です。

 

遅延音をコントロールするディレイラインの出力と入力信号をミックスすると、音に厚みが生まれるため、コーラスエフェクトは常にかけておくことが多いです。ただし、コーラスの効果が強く出ると、元の音が埋もれてしまうので、微調整が必要です。

 

ディレイラインの出力信号のみを使用すると、ビブラート効果をつけることもできます。
 


イコライザー

周波数域の音量を上げたり下げたりして、音質を調整するエフェクトを「イコライザー」と言います。イコライザーのタイプはおもに次の3種類に分かれます。

 

●     パラメトリックイコライザー:周波数帯域(バンド)が数個に分けられており、直感的に操作できることから、もっともメジャーな種類

●     グラフィックイコライザー:ミキサーの出力に接続して、全体の音質補正やモニターのハウリングを抑えるために使うことが多い

●     ハイパスフィルター:設定よりも高い周波数を通すフィルターで、低域の音を減らして高音域を増やせるため、主に音声や画像のシャープ化、雑音除去などに使われる

 

バンドやオーケストラなど、さまざまな楽器の音をミキサーでミキシングしている場合、聞こえにくいパートが発生してしまう可能性があります。このようなとき、イコライザーで周波数域を調整することによって、それぞれの音が際立って聞こえるため、臨場感や立体感を演出できます。
 


ディレイ

音が遅延して聞こえるエフェクトを「ディレイ」といいます。やまびこのように一つの音が遅延して何度も聞こえ、徐々に小さくなっていくのがディレイの特徴です。

 

リバーブは元の音と反射音がまとまって聞こえるのに対し、ディレイは遅延した音がそれぞれ独立しているという違いがあります。遅延音と次の遅延音との間隔を「ディレイタイム」といい、遅延音の数(繰り返す回数)を「フィードバック」といいます。

 

ディレイのおもな種類は次の2つです。

 

●     スラップバック・ディレイ:元の音の入力直後に反射を再生するタイプ

●     ディレイ・オーディオ・エフェクト:元の音に空間の広がりを足すことができる
 



ライブなどのイベントで音響効果にこだわるメリット

ライブやイベントはパフォーマンスから視覚的に多くの情報を入手しますが、音がなければパフォーマンスの良さが伝わりません。つまり、音響効果はライブやイベントの成功の鍵を握っているのです。

 

ライブやイベントで音響効果にこだわるメリットは、おもに次の2つです。

 

●     没入感を味わってもらえる

●     音で感情を動かすことができる

 


没入感を味わってもらえる

音響効果は音を足すだけでなく、余計な音を取り除き、映像やパフォーマンスの没入感を高める役割も担っています。たとえば、舞台でシリアスな会話をしているシーンでBGMの音が大きかったり、環境音が入っていたりすると、観客は注意が散漫して会話の内容に集中できません。

 

また、ライブでハウリングやノイズが気になると、感動よりも不快感が勝ってしまうこともあります。不要な音を取り除き、最適なボリュームに調整することによって、必要な情報だけが観客に伝わり、より深い没入感を味わってもらえるのです。


音で感情を動かすことができる


人は多くの情報を音から収集しているほか、無意識に脳で音の情報処理を行うため、音で感情を動かすことができる効果が期待できます。実際に以下のように、効果音や音楽と感情が結びついているケースも多いです。

 

●     ピアノ演奏を聞くと感動的なシーンだと認識する

●     雷の音を聞くと不穏な展開を予想してしまう

●     アップテンポの曲は楽しい気分になる

●     オーケストラの演奏を聞くと壮大さを感じる

 

このように、音はメッセージ性を持って感情に深く訴えかけることができます。視覚だけでは伝わらない情報を音で補足したり、イメージをより具体化したりなど、音響効果を巧みに操ることで、観客にとって満足度が高いイベントになります。
 



ライブなどのイベントで音響効果を最大限に活かすコツ

音響効果は、舞台のシーンやライブパフォーマンスのクオリティを底上げするものでなくてはいけません。音響効果を最大限に活かすためには、会場の広さや動員数、イベントの内容をもとに細かい調整をすることが大切です。

 

ライブやイベントで音響効果を最大限に活かすコツは、おもに次の2つです。

 

●     イベント時は会場の規模や動員数に応じて調整する

●     長時間のイベントは音がこもらないように気をつける
 


イベント時は会場の規模や動員数に応じて調整する

最適な音響効果は、会場の規模や動員数によって変わります。また、屋内か屋外かによって、音の感じ方は大きく変わります。

 

屋内のライブは楽器やスピーカーから聞こえる「直接音」と、壁に当たって跳ね返ってきた「反射音」の2種類の音を同時に耳にしているため、この2種類の音のバランスが崩れると安っぽい音楽になってしまいます。しかし、野外フェスなどのイベントは開放的な分、反射音が小さく、音が心地よく聞こえるのです。

 

そのため、屋内のイベントでは、より高度な音響効果の技術が求められます。また、リハーサル時と観客が入った時では響きがまったく違うので、本番と同じ環境を見越して音響を調整しなければいけません。
 


長時間のイベントは音がこもらないように気をつける

音がクリアに聞こえなかったり、音の大小のバランスが気になるシーンが多かったりすると、観客は疲れてしまいます。とくに、長時間に及ぶイベントを開催するときは、観客が心地よく感じる音響を細かくデザインしなければいけません。

 

観客にとって心地よい音空間を作るためには、音の強弱だけでなく、音の方向も意識することが大切です。ステージや舞台の方向から音が聞こえるよう、スピーカーを最適な場所に配置した上でチューニングを行いましょう。
 



音響を使った演出でイベントを成功に導いた事例

音楽には感情を引き出す効果があり、記憶された音楽に触れるたびに、音楽と結びついた記憶が呼び起こされるといわれています。それほど、音は人の記憶に深く刻まれます。

 

今回は音響を効果的に活用した演出で、イベントを成功に導いた事例を3つ紹介します。
 


国内初の不快な音を集めた音響XRイベント

「不快ミュージアム」は、「日本初?」の不快な音を集めた音響XRイベントです。XR(クロスリアリティ)とは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)などの最先端技術を指し、不快ミュージアムは、不快な音を立体音響で体験できるなど、位置情報活用型の音響再生技術を使って、動きと連動して不快な音が聞こえる体現ができます。

 

音響効果は人を感動させたり、心地よさを与えたりするための役割がありますが、不快ミュージアムは、あえて聴覚を刺激する不快な音に焦点を当てることで、思わず顔をしかめたくなる興味深い音響イベントを実現させました。
参考:
深井ミュージアム「公式サイト」
 


イマーシブミュージアム

「イマーシブミュージアム」は、ゴッホやモネ、ルノワールなど、世界的に著名な芸術作品を映像コンテンツ化し、開放的な屋内空間の壁と床に没入映像を投影し、特別な音響体験ができる体験型アートエキシビジョンです。一般的な美術館との大きな違いは、圧倒的な没入感です。

 

従来の「観賞型」のアートとは一味も二味も違う「没入型」のアートを提供することで、新たな視点で芸術を楽しむことができます。また、会場はすべてのゾーンで写真撮影が可能なほか、2024年開催の「Immersive Museum TOKYO vol.3 印象派と浮世絵 ゴッホと北斎、モネと広重」では、生花の販売も実施。

 

ゴッホのひまわりにちなんで、ひまわりをはじめとする季節の生花を販売し、イマーシブミュージアム内のコンテンツと写真撮影が楽しめるなど、撮影を許可することによってSNSへの投稿を促し、集客につなげています。
参考:イマ―シブミュージアム 東京「公式サイト」


Japan Mobility Show 2023|YAMAHA

2023年に開催された「Japan Mobility Show 2023」では、前身の「東京モーターショー」時代を通してはじめてヤマハ発動機が共同で出展したことで話題になりました。”「生きる」を感じる”をコンセプトにブースを劇場空間に見立ててさまざまなショーを上演。

 

従来のオーディオ・フォーマットでは実現が難しかった最新技術「イマーシブオーディオ」でショーを上演することによって、臨場感のある空間をデザインしました。ショーやサウンド・インスタレーション用の楽曲は合計30曲近くにおよび、来場者が常に劇場空間の中にいられるよう、一時も無音状態にはならない構成にしたことによって、来場者を感動で包み込むことに成功しました。
参考:Japan Mobility Show「公式サイト」
 



音響効果はにイベントの印象を大きく左右する重要な役割がある

音響効果は、テレビ番組や映画といった映像作品や、ライブ、舞台といったイベントの印象を大きく左右する力を持っています。映像やパフォーマンス、照明などの演出を調和させるために、音響はなくてはならない役割を担っています。

 

ただし、音響効果の仕事は専門的な知識やスキル、経験が求められます。そのため、音響効果は専門業者に依頼するのがおすすめです。プロの技術でハイクオリティな映像作品の制作、イベントを実現させましょう。