舞台照明の種類や当て方とは?舞台を効果的に演出する方法
没入感のある舞台を作り上げるためには、さまざまな舞台照明の用途を把握し、照明の当て方や光の色、強度などを綿密に調整する必要があります。また、色の心理効果をうまく活用すれば、観客の感情に影響を与えることができます。
本記事では、舞台照明の当て方と効果、舞台照明の種類について解説します。また、照明の色が観客に与える心理効果や、舞台照明の成功事例についても紹介しているので、舞台照明の基本的なノウハウや演出方法が知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
▶記事監修者:足尾暖氏
株式会社ZERO Animation 代表取締役
イベントプロデューサー
ゲームプロダクション、大手デジタル広告代理店での経験を経て2023年、株式会社ZERO Animationを起業。
ライブ、法人イベント、展示会など幅広いイベントを手掛け、年間30件以上の企画、集客、運営、分析を担当している。
舞台照明とライブ照明の大きな違いは?
舞台照明もライブ照明も、演目の内容や人物などを引き立たせるという目的は共通しています。しかし、舞台では「部屋の中」「夕方」「朝」など場所や時間の経過を観客に伝えるために照明を活用することが多いのに対し、ライブではリズムや曲調に合わせてテンポよく照明の色や当て方を切り替えて、場の雰囲気を高めるために活用するという違いがあります。
どちらかというとライブ照明の方が鮮やかで動きがあり、派手なイメージが強いでしょう。たとえば、舞台では人物の表情を際立たせるために客席側から照明を当てたり、スポットライトで人物のみを強調したりします。
一方でライブでは、強い光を点滅させるストロボや、ミラーボールなど、インパクトのある照明の当て方をすることもあります。
舞台照明の当て方と効果
照明で空間や場面を表現したり、照明で登場人物の感情を引き立たせたりなど、舞台照明は重要な役割を担っているため、照明も公演の一部といっても過言ではありません。照明の当て方とその効果を把握したうえで照明の構成を検討することで、場面や人物の感情を観客に正確に伝えられます。
基本的な舞台照明の当て方は、おもに次の8つに分かれます。
前明かり
客席側の天井に備え付けられたシーリングライトや、客席の両サイドの壁に取り付けられたフロントサイドライトで、舞台を前から照らす照明の当て方を「前明かり」といいます。前明かりは、登場人物の表情や演技を際立たせるために使われます。
ただし、前明かりが強すぎると立体感が失われ、舞台が平面的に見えてしまうので、照明の強さには注意が必要です。シーリングライトは、舞台に向かって垂直に光を当てることができますが、フロントサイドライトは斜めから舞台を照らすので、より綿密な調整が必要になります。
ステージサイドスポット
「ステージサイドスポット」とは、舞台のサイドに、スタンドやタワーにスポットライトを取り付けた機材を配置したものをいいます。ステージサイドスポットは移動してベストなポジションに配置できるので、演出によって柔軟に活用できるのが特徴です。
ステージサイドスポットは、光の方向を徐々に変化させ、時間の経過を表現するときによく使われます。また、雪の降るシーンは、斜め下方向から照明を当てることによって、幻想的な空間を演出できます。
地明かりサス
舞台の上部に取り付けたボーダーライトを使って真上から照射し、舞台全体を自然に明るくして舞台照明のベースを作ることを「地明かりサス」といいます。地明かりサスに使われるボーダーライトは、ライン上に複数の照明が並んでいるため、光の重なりの過言やムラがないかを確認して、舞台の土台となるベースを作らなければいけません。
また、公演の脚本を考慮し、登場人物がどんな演技をしても、照明から外れることがないように調整する必要があります。
ぶっちがい
舞台上部のサスペンションライトを使い、左右の光を舞台上で交差させることを「ぶっちがい」と言います。舞台のベースとなる地明かりサスに「ぶっちがい」の光を重ねることで、舞台にムラなく明かりが届くようになります。
また、サスペンションライトの光量を左右で変えることで、一方向から光が当たっているような演出もできます。
サス残し
舞台上部のサスペンションライトを一本だけ残し、登場人物にスポットライトを当てることを「サス残し」といいます。「サス残し」は、おもに舞台が暗転する前の最後のシーンを印象付けるために使われる演出です。
登場人物の動きやセリフと連動させることによって、「サス残し」がより効果的にはたらきます。また、「サス残し」をするときは、登場人物の真上からスポットライトを当てると、顔に影ができて表情が見えにくくなるので、登場人物に光が斜めに当たるように調節するのが基本です。
ころがし
舞台前方の床にフットライトスポットを設置して、登場人物や舞台装置に下方向から明かりを当てることを「ころがし」といいます。フットライトスポットが舞台上に転がっているように見えるため、「ころがし」と呼ばれています。
ただし、舞台前方に照明機材を直接設置するのは、機材の転落や登場人物との接触といった危険性があるため、舞台上の低い位置に照明機材を設置できる「平置ベース」を使用して安全性を確保しましょう。
ホリゾント幕を染める
舞台正面奥の壁や背景として機能する白地のホリゾント幕にホリゾントライトを照射し、幕を染めたように見せる演出を「ホリゾント幕を染める」といいます。舞台上部に設置されたアッパーホリゾントライトと、舞台前方の床に設置されたロアーホリゾントライトを単体、または組み合わせて活用し、青空や夕暮れ、夜空などを表現できます。
欄間吊り
舞台上に組み立てた装置で、まるで建物の中のような空間を作り出す大道具を「屋台飾り」といいます。この屋台飾りの中で演技するときに、登場人物の表情がはっきり見えるように、屋台飾りの中に設置する照明が「欄間吊り」です。
欄間吊りは屋台飾りの入口部分裏側の上部など、観客から見えない部分に照明を設置します。大道具を加工する必要があるので、欄間吊りを行うときは、大道具のスタッフに相談し、照明を設置できるように調整してもらいます。
舞台照明の種類
舞台照明にはさまざまな種類があります。照明の位置や用途を把握しておくと、舞台の演出について選択肢も増えるでしょう。
主な舞台照明の種類について、その特徴を解説します。
サスペンションライト
舞台上部には舞台の演出に使われる背景幕やパネルなどを取り付けて昇降させることができる「バトン」が取り付けられています。舞台の幅に合わせて作られたバトンに設置するスポットライトを「サスペンションライト」といいます。
舞台の真上からサスペンションライトで光を当てることで、登場人物や大道具に立体感を加えることができます。
ボーダーライト
舞台の上部に取り付けられた照明のなかでも、客席側に近い照明を「ボーダーライト」と言います。ボーダーライトは舞台幅に合わせて作られており、ライン上に埋め込まれた複数の照明で舞台全体を均等に明るくする役割を持っています。
一般的に、舞台のベースとなる雰囲気を作るために使われます。
ステージサイドスポット
舞台上の両サイドに設置する照明を「ステージサイドスポット」といいます。ステージサイドスポットは移動して使用できるので、舞台の演目によって設置する場所を変更したり、設置せずに舞台を行ったりします。
真横から照明を当てることによって、登場人物や大道具に立体感を与えられます。また、左右の光の加減を調整することで、光の方向や差し込む光を表現できます。
ホリゾントライト
舞台の一番後ろにある「ホリゾント幕」と呼ばれる白い大きな幕は、舞台で壁のような役割を果たしています。このホリゾント幕に照射して舞台を演出するライトを「ホリゾントライト」といいます。
ホリゾントライトは、おもに次の2種類です。
● アッパーホリゾントライト:舞台上部に設置されているホリゾントライトで、上からホリゾント幕に光を当てることによって、天空などの背景を表現できる
● ロアーホリゾントライト:舞台の床からホリゾント幕を染めることで、季節感や天候をはじめ、時間の経過なども演出できる
シーリングライト
客席の天井に設置する照明を「シーリングライト」といいます。舞台の正面から光を当てて登場人物の表情を際立たせたり、登場人物や大道具の不自然な陰影を調節したりする役割があります。
フットライト
舞台幅に合わせて作られ、舞台最前方の床に設置する照明を「フットライト」といいます。下から光を当てることで登場人物の表情に迫力を出したり、衣装を明るく照らしたりするために活用します。
歌舞伎では花道の両側に設置したフットライトで演者に下から光を当て、影をなるべくなくす演出をするのが一般的です。
バックライト
舞台の奥側の上部に吊るされている昇降式のライトバトンに取り付けた照明を使って、登場人物の後ろ側上部から光を当てる演出を「バックライト」といいます。ライブなどの演出で、アーティストの背後から強い光が当たることによって、シルエットのみが浮き上がって見えるような演出がバックライトです。
シーリングライトやフットライトといった舞台前方からの光とバックライトを組み合わせることによって、登場人物を立体的に見せることができます。
フォローピンスポットライト
舞台上でキーパーソンとなる人物に観客が集中できるよう、ピンポイントで対象に照射する客席の壁側の上部に設置された照明を「フォローピンスポットライト」といいます。フォローピンスポットライトは、特定の人物の動きを追うように動かすため、ほかの照明との違和感が生まれたり、平面的に見えたりしないように、光の強度や色をデザインしなければいけません。
また、フォローピンスポットライトは舞台上の演出にタイミングを合わせることが重要です。脚本や照明のタイムテーブルを把握し、正確に操作する必要があります。
舞台照明の仕事内容
舞台照明は、舞台上や客席といった会場内に設置したさまざまな照明を駆使して、舞台を演出するのが仕事です。現場での仕事がメインとなりますが、公演の前から照明プランを検討したり、照明機材の設置、操作、撤収といった舞台照明に関わる幅広い業務を担当します。
舞台照明のおもな仕事内容は次の3種類に分けられます。
● 照明の企画
● 照明機材の配置
● 照明オペレーション
照明の企画
照明プランの決定は、舞台照明が独断で行うわけではありません。舞台のプランナーや演出家、舞台監督、舞台音響と打ち合わせを重ね、公演のテーマや演出に合う照明プランを検討します。
次に会場の広さや動員数、特性をふまえたうえで、照明機材や当て方、光の色や強さを決定します。詳細が決定したら、タイムテーブルを作成し、照明機材を調達します。
照明機材の配置
照明機材を調達したら、会場に搬入し、機材を設置して配線作業を行います。また、舞台の公演日程がすべて終了したら、機材を取り外して撤去作業も行います。
照明オペレーション
公演中は作成したタイムテーブルに沿って、照明機材を操作します。会場の規模や照明演出によっては、複数人で役割分担して作業することもめずらしくありません。
規模の大きい会場では、チーフオペレーターの指示のもと、チームで機材の操作を行うこともあります。最近では、コンピューターに指示を入力し、コンピューターが音楽や照明のオペレーションを行うケースも増えています。
【シーン別】照明色の組み合わせが観客にもたらす感情表現
色には心理効果があるといわれており、実際に人は色からさまざまな情報を受け取っています。たとえば、着用した服の色で気分が変わったり、部屋の壁の色が変わるだけでリラックスできたりすることもあります。
このような色の心理効果を巧みに操ることで、登場人物の感情をわかりやすく観客に伝えられます。それぞれの色が与える効果を把握して、より観客の心に響く照明演出にしましょう。
ホワイト:平穏なシーン
ホワイトは人を穏やかな気持ちにさせるといわれており、一家団欒を楽しむリビングの照明は白色であることが多いです。舞台においても、平穏な会話シーンや室内の団欒シーンなどにホワイトの照明を活用します。
また、ホワイトは神聖な色ともいわれているので、神秘的なシーンやエレガントな雰囲気を演出したいときにも白色の照明が使われます。
オレンジ:情熱的なシーン
オレンジ色は友情や活発的な様子を連想させるため、明るく元気なイメージを与えたいシーンにオレンジ色の照明を使うことが多いです。また、やわらかいオレンジ色の照明はリラックス効果が高く、料理を美味しく見せてくれるので、食卓のシーンや寝室のシーンに用いられることもあります。
レッド:怒りや敵意
レッドはパトカーや救急車のサイレンなど注意を促すときに使われるので、「危険の色」とも呼ばれています。舞台上では、怒りや敵意を表す一方で、情熱を表すときにも使用されます。
また、グリーンやブルーと混ぜて、夕暮れを表現するときにも使われます。
ピンク:愛や女性らしさ
ピンク色は、恋愛をイメージさせたりする色といわれています。彩度によって印象が変わるのが特徴で、淡いピンク色で恋心を、ビビットなピンク色の照明で欲望を表現することもあります。
また、ピンク色は肌に血色感を与えてくれるので、登場人物の女性らしさを演出したいときにも効果的です。
ブルー:悲しみや孤独
ブルーは静けさを連想させる色なので、悲しみや孤独を表現したいときに使用します。また、淡いトーンのブルーは落ち着いた雰囲気や、冷静な心境を表現したいときに使われます。
深いブルーに紫を加えて、夜空や夕暮れのグラデーションを表現することもあります。
グリーン:思いやりや落ち着き
グリーンは、母性や思いやり、幸福といった、あたたかい感情を表現するのに適しています。また、自然をイメージするシーンや、観客の心を落ち着かせたいときに活用します。
イエロー×パープル:光が差している様子
イエローとパープルは色相環において「補色」になるので、まったく正反対の色にあたっているものの、馴染みやすい配色です。舞台の斜め前方向や真横からイエローとパープルの照明を当てることで、一方向から光が差している様子が表現できます。
演出効果を高める舞台照明の成功事例を紹介
基本的な舞台照明の当て方をベースに、色の温度や角度にこだわることで、舞台のクオリティを高められます。また、舞台のテーマやイメージをもとに照明プランを検討すると、没入感を高めることができます。
今回は、舞台やショーの照明を演出し、成功に導いた事例を2つ紹介します。
朗読劇|LEDライトによる演出
講堂で行われた朗読劇では、会場の広さや構造、もともと備わっていた設備を活かしながら、LEDバーライトを追加することによって、場面に合った効果を演出することに成功しました。戦争の切迫する危機感を表現するため、人物の後方に設置したフルカラーで自在に色を表現出来る明かりで、リアリティのある赤色を表現。
また、ホリゾント幕ではなく、舞台後方にスクリーンを設置する朗読劇だったこともあり、スクリーンに光が当たらないよう、照明プランに工夫を凝らしました。上下左右をカットし、照射範囲を調整できる「ソースフォー」という明かりを使って、スクリーンへの干渉を最小限に留め、朗読劇の雰囲気を壊さないように注力したことで、観客が没入できる朗読劇になりました。
東京モーターショー|ダイナミックに動くムービングスポットライトを多用
「第43回東京モーターショー2013」では、斬新な照明プランで魅了したトヨタブースが注目を集めました。注目を集めた理由は、主役である車をいかにして魅力的に見せるかに特化したことです。
車のデザイナーから話を聞いたり、車体用板金見本で色を確認したり、膨大な車の情報を収集したうえで、使用する機材や照明の当て方、色味を綿密に計画しました。照明プランを検討するときは、ブースの平面図から3D図面を作成。
厳しいルールに沿ったうえで、最大限にできる照明演出を模索しました。その結果、ムービングスポットライトを多用し、モーターショーならではの動く車の動きを演出することに成功しています。
舞台照明にはストーリーを引き立てる重要な役割がある
舞台照明は、舞台のプランナーや演出家、舞台監督、脚本家、舞台音響と打ち合わせを重ねて照明プランを練り上げます。また、会場の広さや設備、動員数を考慮し、観客が公演に没入できる環境を作る重要な役割を担っています。
舞台照明にはたくさんの設備があるため、演出によって当て方や色、光の強度を調整することが大切です。また、色の心理効果を活用し、観客の感情にうまく影響を与えるのも一つの方法です。
ただし、舞台照明の仕事は専門的な知識やスキル、経験が求められます。そのため、舞台照明は専門業者に依頼するのがおすすめです。
洗練されたプロの照明演出で、印象に残る魅力的な舞台を作り上げましょう。